ひとひらの布切れ・・・
私は30代の頃、一人で山歩きすることが好きでした。ある時、山道が分からなくなった事がありました。道であろうと思うところをしばらく進みましたが、道ではないような気がして立ち止りました。気持ちを落ち着け、周りを調べましたが不安は治まらなかったので、道が分からなくなった地点まで戻りました。荷を下ろし、水とチョコレート等を取り
休憩しました。引き返すこともありと決めつつも、あたりを見渡しました。一面竹笹で覆われた笹原が広く続いていました。しばらくして、四五十メートルくらい先の木の枝に一枚の布切れが垂れ下がっているのを見つけました。それは、揺れながら「ここですよ。」と
言っているようでした。荷を背負い、笹に分け入り木の所まで来ると・・・根元の反対側の一段下がったあたりから山道が続いていました。私は、かがむ様にして木の根っこを回って下に降り、再び山道に立った時、何か大きな体験をしたような気持ちに打たれました。
「大自然の中では人は微力であり、ひとひらの布切れに助けられることもある。・・・」
この経験を機に私は謙虚になっていったのかもしれません。
山では布切れ等の目印を設ける事が多いと知りました。「しるべ」と言うそうです。